契約の恋愛
｢…聞きにくいんですが…両親がいなくなった後、どうやって生活してたんですか？｣

……鋭い。
この男、鋭いぞ。

｢えぇっと、とにかく最初はショックで何も考えられなくて…街をずっと歩いていたんです。夜中になっても足は止まらなくて。そしたら、ある人に声をかけられたんです｡｣

初対面の人にどこまで教えるべきか悩んだが、どうせなら全部教えておこうと思った。

私は今まで、自分の過去の事を"あの人"以外には話したことがない。

"あの人"が、私の傷も苦しみも過去も、全部受け止めてあげると言ってくれたから。

でも…。

｢…ある人…ですか。｣

｢えぇ…。二十代後半の優しい人…。その人が、私をかくまってくれたんです｡｣
そう。その人がいたから今私は生きてる。

でも…。

｢その人は、どこかの学校の先生でした。しかも、どこの子かも分からない私をずっと面倒見てくれたんです。学校にも通わしてくれて…。｣

｢…そうだったんですか…｡優しい人に出会ったんですね。今も一緒に暮らしているんですか？｣

その言葉に、私は背中を震わせてうつむいた。

長くなった前髪が鼻をくすぐる。
< 33 / 236 >
表紙・目次

この作品をシェア

pagetop