契約の恋愛
「西原、璃雨さんですよね。」

雨の音を掻き分けて、璃雨の耳に到達する男の声。
私は何も答えなかった。

これから何か起きるのか全く分からない。
そんな雰囲気が、私の口を塞いでいた。
男はゆっくり私に近づいてくる。

「私は、黒澤紀琉といいます。」

くろさわ…き…りゅう。
聞いたことない。

男は更に近づいてくる。

「今日は、あなたにお願いがあって、参りました。」
「…お願い?」

ここでやっと、私の声は男に届いた。
心の中で、危険信号が鳴ってる。そんな気がする。

この男に近づいてはいけない。
けれど、何が起ころうと私はどちらにせよ死ぬ。
何が起ころうと関係ない。そんな気持ちが、私の心を冷静でいさせてくれた。

それに、どちらにせよ私は動けない。

この男が何なのか。その好奇心の方が大きかったからだ。
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