ずっと抱いてて
 夜間の点検を除けば、後は初老の男性の与太話でも聞いておけばいいのだから……。


 春という心地よい季節はあっという間に終わり、また暑い夏がやってくる。


 ボクは夜勤で疲れていても、愛海からケータイに連絡があれば、いつでも彼女に会いに行っていた。


 ボクが愛海の部屋に訪ねていくと、本棚は綺麗に整理整頓され、フローリングの床には大きな辞書や執筆のため掻き集めた資料などがたくさん小積んである。


 いかにも作家のいそうな部屋だというのが、ボクの抱く第一印象だった。


 愛海はどうだか知らないが、ボクはこの街の人間たちを嫌っている。


 単なる一地方都市で、大都会じゃないからか、人間が荒いのだ。


 ボクはそういった点を極度に嫌っていた。


 まあ、整然としたものをこの街に求めるには少々無理があると心の中では思いながらも……。
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