ずっと抱いてて
 作家を目指している愛海も、一応何かあったときのために教員免許ぐらいは取っておきたいのだった。


 そしてボクは夜間、警備員のバイトをしながら、自分の上司である倉田さんからいろいろと教え込まれていた。


 その日も愛海と一緒に大学に通い、授業を受け終わって、バイト先に行き、与えられた制服に着替えてから勤務が始まった。


 倉田さんは五十代後半か六十代に入った頃ぐらいで、自身の大学在学中に学生運動をしていて、それで強制退学させられ、いろんな仕事を転々としながら、今の警備保障会社の主任になったのだ。


「大嶋」


「はい」


「お前、もうちょっと気抜いていいぞ」


「気を抜く?」


「ああ。俺もお前ぐらいの頃は、熱かったもんな。何て言うか、いい意味でもそうじゃない意味でも生き生きしてたよ。疲れきってる今とは違ってね」


「そうですか。でも、ボクぐらいの年じゃ気は抜けませんよ。このバイトに生活懸(か)かって
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