ハッピーバースディ
(一)
目が覚めると、もう午前11時をまわっていた。
少し肌寒い。

タクは、コタツに横になったまま眠りこんでいた。
昨夜夜中までDVDを見て、そのまま眠ってしまったらしい。

ベランダの戸を少し開ける。

雨が降っていた。

あまりに静かだったから気付かなかった。

それはまるで降っているというよりは、
そうっとあたりを湿らせていく、そんな感じだ。

ゆっくりと浄化された空気は新鮮で、
見渡せる緑の葉や木の色が、いきいきと浮かびあがっている。
みんなが深呼吸をしているみたいだ。

私も大きく息をすいこんだ。

ひやっと肺に広がる風。
体の中まで緑に染まっていきそうな気がする。

独りじめするのがあまりにもったいなくて、タクを呼んでみた。

タク、こっち来なよ、って。

タクは、窮屈そうにもそっと動いただけで、起きる気配はなかった。
まぁいいか。
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