Bitter
私は動けなかった。





まばたき一つせず、固まっていた。





エレベーターの扉がゆっくりと閉まる。





その時数秒、高瀬と目が合った。





二人を乗せたエレベーターは私の視線から逃げるように下っていった。







私は事態がうまくのみこめないまま、駐車場を見下ろした。



黒いスポーツカーに、高瀬と母親が近づいていく。



そしてさっきまで私が座っていた助手席に、母親は当然のように乗り込んだ。





二人してタバコを取出して火をつけ、車は発進した。







(‥‥‥‥‥‥なに‥‥これ‥‥‥‥。)








車が見えなくなっても、しばらく呆然としていた。








私はフラフラと家に入り、リビングのソファに横になった。



床に、母親のパジャマがちらかっている。




いつもなら当然のようにそれらを片付けている。




『‥はっ』



私は突然笑いだした。


『バカだー私。今までなにやってたんだろー‥ははっ炊事洗濯して、バイトして、高瀬の女に・・あはは!』







今日は散々だ。






笑いながら、さめざめと泣いた。








高瀬と母が関係を持っていることと同時に、
母が誰かを愛する心を持っていながら、自分にそれが向かない事がショックだった。







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