風にキス、君にキス。



「…また、来るね」


「おう。…ありがとな」



先輩達に続いて病室を出る前に、あたしは日向にそう微笑みかけた。



…そして、そこでやっとお見舞いの花を持って来たことを思い出した。



「あ、忘れるところだった」


「…ん?」


「これ…」




あたしが選んだ、赤くて小さな花をたくさんつけた鉢。



日向に差し出して、「ゼラニウム。小さい花が次々と付くの」と説明した。




…選んだ理由は、言おうとしたけどやめた。




「水、あげてね」


「俺よりもお前…柚、に似合ってるけどな」



日向は少し苦笑いして、花を受け取ってくれた。




「確かに日向には可愛すぎるかも」


「な?」


「またね」




泣かない。



日向がいるから…もう、泣かないよ。





< 88 / 310 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop