キテレポ 08-09
No.25

笠原祥子(24)カサハラショウコ

こればっかりは仕方がない。彼女のせいでもないし、親御さんのせいでもない。運が悪かったとしか言いようがない。お察しの通り、彼女は名前がカブってしまっている事が原因で、それはそれは、つらく悲しい青春時代を送ってきたのである。
とにかく時代の流れが悪すぎた。あまりにもリアルタイムすぎた。件の集団が巷を騒がせたのは、ちょうど彼女が5年生の時であった。この時期の子供達にデリカシーなどある訳がない。無論、彼女は容赦のない攻撃を受けた。ボロクソにけなされた。とくに「ショーコー ショーコー ショコショコ ショーコー カサハラ ショーコー♪」という歌による攻撃が応えた。
今までいじめられた事など一度もなかった彼女が、むしろいじめる側のポジションにいた彼女が、今やクラスの全員から集中砲火を浴びている。先生までもが、授業中、居眠りしている彼女を見るにつけ「祥子、瞑想するな!」などと、ネタにする始末である。あまりにも残酷すぎる。
彼女はふさぎ込んだ。時々、めかし込んだりもしたが、基本的にはパジャマのままでいる事が多くなった。しかしそんな中、彼女は一筋の光を見いだした。そして、それを即実行に移した。他でもない。『改名』である。『笠原祥子』改め『笠原キャリー』。
この背景には、エキゾチックな名前を付ければ、少なくとも日本にいる限りは、同じような悲劇は起きないだろう。という判断があり、同時に、マライア・キャリーに憧れを抱く彼女のミーハー的一面がある。
しかし、マライア・キャリーの『キャリー』は名字であるという事実。すなわち『笠原キャリー』は『名字・名字』になってしまっているという事実。彼女がこの事実に気付いているかどうかは、定かではない。
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