偽装婚約~秘密の契約~
どうして…
どうしてあの冷酷な晴弥があたしを傷つけずに、なんて言うんだろう。
ますます、晴弥が分からなくなった。
『契約の一環として別れることを沙羅様に言ったのはそれが一番良い方法だと思ったからです。
結果的に沙羅を傷つけることになるかもしれない。
けど、二股をかけられていたことを知るよりは遥かに良いだろう、それが晴弥様の考えでした。
でも沙羅様は頑(カタク)なに別れることを拒んだ。
だから、晴弥様は洋介さんのところへ行ったのです。
沙羅と別れて欲しい、晴弥様はそう言って頭を下げました。
私は晴弥様を幼い頃から知っています。
そして、彼が人に頭を下げるのを初めて見ました。
晴弥様はとてもプライドの高い方です。
そんな晴弥様が沙羅様を傷つけまいと、自分のプライドに反する行為を行ったのです。
ここまで話せば、晴弥様が本当はどういう方なのか、お分かりになりますよね…?』
瑞季さんがゆっくりとあたしから離れる。
高ぶっていた気持ちは落ち着いていた。
「……瑞季さん…」
ニコッと微笑む瑞季さん。
そして、言った。
『私は沙羅様ほど、晴弥様に似合う方はいらっしゃらないと思っております。
あくまでも半年間だけの関係かもしれません。
それでもその間はお二人に仲良くしてほしいのです』
瑞季さんは部屋のドアを開けた。
「ごめんなさい、瑞季さん。
それと…ありがとう」
そう言ってあたしは部屋を出た。