Far near―忍愛―


「ねぇ、明日さ。一緒に出掛けない?」

「えっ…」


それは本当にある日突然。

いつものようにソファーに座って後ろから佐和子を抱きしめながらDVDを見ていると、佐和子が思い付いたように呟いた。

俺は願ってもない彼女からのデートの誘いに呼吸が止まりそうなくらい驚いたけど、断る理由などどこにもないので

「いいけど…」

と舞い上がる気持ちを抑えながら出来るだけ平然を装って言った。



「ほんと?やったぁ~!何処いこっかー?遊園地がいい?それとも水族館?」

「ふっ。俺いくつなの」

「えっ。ダメ?じゃあ映画とか?」

「いーよ、佐和子の好きなとこ行こ」

はしゃいでいる姿が可愛くて、俺はいつの間にか父親のような心境で、見守るように微笑んで言った。

これじゃいつもと逆だ。

佐和子はそれを意外だと思っているのか、一度はしゃぐのをやめてポカンと俺を見つめた。


「なに?」

「なんか…幸秀の彼女になる子はきっと幸せになるだろーなって」

「はぁ?」


言葉の意味が全くわかんなくてすっとんきょーな声が出る。



「だって、すっごくすっごく優しいから。きっと凄く大事にするんだろうなぁ」

「……………」


笑顔でそう言われ、俺は佐和子のお腹に回していた手に力を込めた。


「幸?」


…だったら、俺のもんになってよ。

誰にでも優しくしてると思ってんの?



あんただから…



「…んで気づかねんだよ…」

「え…?」


顔を覗きこまれた所で俺はハッとしてようやく冷静に戻れた。


…何を言おうとしてたんだ俺…。


危うく

絶対幸せにするから俺にしとけよ

なんて言いそうになった。


眉間にシワを寄せながら、一生懸命気持ちを押し殺してちらりと佐和子を横目で見ると、彼女はとても不安そうな顔をしていた。
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