サラリーマン讃歌
俺は空見子の家の門扉の前で倒れるように座り込んだ。

運悪く水溜りに座り込んでしまったが、既に全身ずぶ濡れだった俺にはあまり関係のない事だった。

そのままの体勢で激しく脈打っている心臓と、息遣いを整える為に暫くその場に止どまっていた。

辺りは薄暗くなってきており、俺の耳には地面を激しく打付ける雨の音だけが支配した。








不意に、俺の目に明るい光が飛び込こんだ。

俺が座り込んでいる位置の５メートルほど先が三叉路になっており、そこを車が左折してきたのだ。

車は座り込んでいる俺を発見するのが遅れたのか、急ブレーキをかけ、音をたてて停車した。

車の扉が乱暴に開くと、スーツ姿の初老の男が怒鳴りながら出てきた。

「何してるんだ、人の家の前で！」

俺は僅か１メートル程までに車に迫られた恐怖と、まだ完全には回復しきっていない体の為に応える事が出来なかった。

「人の家の前で何してるんだって、訊いてるんだ！！」

無言のまま呆然としている俺に苛ついたように、その男は問い詰めてきた。

「……此所の…家の方ですか？」

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表紙・目次

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