サラリーマン讃歌
おそらくバスで行く方が時間的には早く着くのだろうが、それを計算できる程の冷静さは今の俺にはなかった。

少しでも空見子に近付きたかった。

俺はひたすら走り続けた。

住宅街に入り、そして例の空見子に告白した公園までやって来た頃には、喉がヒューヒューと鳴るような激しい息遣いに変わっていた。

走りながらチラリと公園のベンチへと目を向けたが、感傷に浸るよりも体力的に限界が近付いていた俺は、ベンチに体を預けて横たわりたい衝動に駆られる。

それでも、気持ちは一歩でも彼女に近付きたがっていた。

俺はなんとかその衝動に耐えると、既に歩くスピードよりも明らかに遅くなっているような、フラフラな状態ではあったが、着実に一歩一歩前へと歩を進めた。

まだ夕方の五時半過ぎではあったが朝から降りしきる雨の為、この高級住宅街にはあまり人通りがなかった。

明らかにこの住宅街に今の俺の姿は不釣り合いだったので、それ自体は有り難かった。

漸く空見子の家に辿り着いた時には、自分の体を支えれる程の体力的な余裕は一切なくなっていた。

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