サラリーマン讃歌


「そうなんだ。通りで全く違和感がない訳だ」

「一応、OLですから」

腰に手を当てて、胸を張って恭子が言った。

今回の公演はちょっと鈍臭い、要領の悪い冴えないサラリーマンが、その会社の高嶺の花である女性に恋をするという、よくあるパターンの恋愛コメディである。

そのヒロインを演じるのが、今俺の目の前で胸を張っている恭子であった。

「……一応ね」

「何、その含みのある言い方は」

そして、冴えないサラリーマン役に抜擢されたのが、俺であった。

もう一人の男の役者である幸平は男前過ぎるという理由から、消去法で俺が選ばれた時は少々複雑な気持ちだった。

だが、主人公を任された以上、責任の重大さは理解していたつもりなので、かなり気合いを入れてこの四ヶ月間稽古に励んだ。

「悪い意味じゃないぞ。あまりに綺麗過ぎるから、OLには見えないって事を言いたかったんだよ。モデルさんって感じ」

若干目を細めて、俺を睨み付けてくる様な仕種をした恭子に、後付けで無理矢理な言い訳をした。

「直哉もその辺はやっぱ営業マンだね」

そんな事を言いながらも、顔の表情は嬉しそうだった。

「そうかな?」

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