サラリーマン讃歌


「おお、何でも奢ってやるよ」

ニッコリと梓は笑って、久保の腕に掴まりながら二人は出て行った。

「ホントに良い子達よね」

隣りの席に腰掛けている恭子が、二人を目で見送っていた俺の背中越しに声をかけてくる。

「そうだな。感謝してるよ。良い後輩…いや、良い友達だよ」

彼らが出て行った方向をそのまま見詰めながら、感慨深げに言った。

「直哉の人徳かもね」

そう言いながら悪戯っぽく恭子が笑った。

「そうだな」

「否定しないんだ」

「否定する理由がない」

恭子の方に視線を移し胸を張って言う俺に、彼女は苦笑していた。

「それはどうもすいません」

恭子は大袈裟な動作で頭を下げると、俺を見て笑った。

彼女は既に今回の舞台衣装である、如何にもOLっぽい制服を着ていた。

上下共に紺色で、上着の下には白のブラウスを着ており、スカートは膝下までの長さという出立ちだ。

そのままビジネス街に行けば、その街の風景に見事に同化するだろう。

「何かそんな服着てる子が近くにいたら、会社にいるみたいだな」

「そうかもね。ちなみにこの衣装は自前。会社の制服拝借してきたの」

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