サラリーマン讃歌
その想いに応える為にも、俺は高嶋達を信じて待ち、精一杯の演技をしようと心に誓った。




既に公演まで一時間をきっており、ロビーには昨日と同様にかなりの客が来ているようだった。

「ホントに良い友達ばっかりだね、直哉の周りは」

高嶋が楽屋から出て行くと、亜理砂が俺に話しかけてきた。

「ホントにな。俺には勿体ないくらいの良い奴ばっかだよ」

「直哉の人柄が良いからだよ」

「それはねえよ。友達運に恵まれてるだけだ」

昨日も同じ様な事を恭子にも言われたが、今は冗談を返せる様な気分ではなかった。

「そっか……」

亜理砂はそう言うと、何故か寂しそうに笑った。

暫く俺を見詰めていた亜理砂が、突然口を開いた。

「……空見子ちゃんの為にど真ん中の席用意しないとね」

「え?」

亜理砂の口から空見子の名前が出てきた事に俺は驚いた。

「高嶋さんが言ってたじゃない、さっき」

「ああ……でも何で?」

「好きな子って空見子ちゃんなんでしょ?私も……直哉のお手伝いをしたいから」

「…………」

どんな思いで亜理砂はこの言葉を言ったのだろう?

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