サラリーマン讃歌
形は違えど、過去に拘っているという意味では、同じだと俺は思った。

「だからこそ……だからこそ俺は、そんな過去ごと貴女を愛したい!」

セリフの最後の部分は、力強く、そして万感の想いを込めて言った。

それは間違いなく、空見子に、一人の愛する女性に俺自身が放った言葉だった。

「だから、逃げないで下さい!過去からも……僕自身からも!」

そのセリフを言った瞬間、空見子が涙を堪える様に、手を口に当てた。

「僕はそんな過去ごと、貴女を愛しているんだから」

恭子が俺の胸に飛び込んできたと同時に、空見子が崩れ落ちる様に力なくその場に座りこんだ。

「私も……私も貴方を愛しています!」

恭子が俺を抱き締めながら、叫ぶ様に言った。

会場に啜り泣く声が幾つもあがった。

その声に紛れて、空見子の嗚咽に堪える様なウッ、ウッという声が俺の耳に届いていた。

俺はスポットライトを浴びながら、俺とあまり変わりない位置にある恭子の肩越しに、泣きじゃくる空見子を見続けた。

愛する女性をただただ見続けた……

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