サラリーマン讃歌
梓も俺達の抱き合う様子を見て、ポロポロと涙を零しながら、見守ってくれていた。

「直哉、カーテンコールだよ」

空見子や梓の涙につられる様に涙ぐんでいる恭子が、俺の肩を叩きながら言ってきた。

俺は名残惜しい気持ちを抱きつつ、優しくそっと空見子から離れた。

「……行ってくるな。ちょっと待っててな」

俺はそう言って、空見子の頭を優しく撫でた。

空見子は立ち上がった俺を泣き腫らした目で見上げると、何度も頷いた。

俺は空見子に満面の笑みを返すと、カーテンコールを行なう為に舞台へと向かった。

緞帳が再び上がると、主人公を演じた俺が最初に舞台上へと躍り出た。

それを観客が演技者にとって最大の賛辞である、スタンディングオベーションで迎えてくれた。

俺は舞台上のど真ん中まで行くと、それに応えるように観客に向かって深々と頭を下げた。

最敬礼を終え、俺が頭を上げると、例の予約席に高嶋がにこやかに立っているのに気が付いた。

高嶋は俺に向かって両手を突き出し、大きな拍手を送ってくれていた。

俺は思わず微笑むと、今度は頼もしくもあり、心優しき親友(とも)に再度深々と頭を下げた。

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