サラリーマン讃歌
まだ学生気分の抜けない、青臭い二十三歳であった俺は、その表面上の優しさに惹かれ、入社半年で付き合うことになった。

一年半の交際の末、結婚した。結婚当初の俺は幸せだった。

年上のくせに甘えん坊なところや、彼女のチャームポイントである垂れ眼や、その眼が笑うと綺麗な曲線を描き、なんとも言えない可愛い笑顔や、その全てが愛しかった。

だが、その幸せな結婚生活は一ヶ月と持たなかった。

仕事柄よく飲みに連れて行かれた俺は、日付が変わってからの帰宅ということが多々あった。

元来寂しがり屋である渚は、その孤独感に堪えられなかった。

結婚前と飲みに行く頻度は然程変わらなかったのだが、実家に住んでいた渚はあまり寂しい思いはしなかったのだろう。

喧嘩が絶えない日々が続き、渚は家を飛び出し実家に帰る事が増えてきた。

最終的に渚が新しい男を作って家を出ていった。テーブルの上に確りと離婚届けを置いて……

世間ではよくある話なのだろうが、俺を女性不信に陥らせるには充分な理由だった。

(懲りねえな、俺も)

そんな苦い経験をしているにも関わらず、俺はまた恋に堕ちてしまった。

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