サラリーマン讃歌

~久保宅にて~

夕方六時になると家を出た。夕暮れ刻の綺麗な空を見上げながら駅へと歩いていく。

電車に乗って駅に着くと、前以てメールで連絡をとっていたので、久保が迎えに来てくれていた。

「悪いな。図々しく、好意に甘えちゃって」

「気にしないで下さい。ってか、無理矢理誘ったのは俺ですから」

他愛もない会話をしていると、十分程で久保の住むマンションに到着した。

「ここです」

そう言って、マンションのオートロックの扉を抜けて、エレベーターに乗った。

七階で降りて家の前まで来ると、鍵を開けて玄関のドアを開く。開くと同時に、食欲をそそる美味しそうな匂いが漂ってきた。

「お邪魔します」

玄関から真っ直ぐに延びる廊下の奥のドアが開くと、久保の顔をそのまま老けさせたような中年男性が出てきた。

「あ、どうもどうも。いつも息子の達也がお世話になっております」

妙に軽いテンションで挨拶してくるのは、久保の親父さんで間違いないだろう。

「いえ、こちらこそ息子さんにはいつも助けて頂いております」

そんな社交辞礼はそこそこに、リビングへと案内される。

其所には久保の妹さんらしき、外見的にはまだ幼い感じの女性がエプロンを着け、キッチンに立っていた。

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