サラリーマン讃歌
俺の声の大きさに驚いた様にビクッと体を揺らすと、梓は顔をあげて俺を見た。

その頬には幾筋もの涙の跡が見てとれたので、流石にこれ以上の言葉は出てこなかった。

「ごめんなさい……本当に……」

これ以上この場に止どまっていると、更に梓を傷付けてしまいそうなので、俺は泣いている梓をその場に残し、逃げる様に店を出た。

店を出ると朝から曇りがちだった空からは、大粒の雨が俺の心を代弁するかの様に降りしきっていた。

俺は濡れるのも厭わず早くこの場を離れたい一心で、土砂降りの雨の中に飛び込んだ。

< 89 / 202 >

この作品をシェア

pagetop