サラリーマン讃歌

~変化~

カーテンコールが終わると、客の流れに沿って帰ろうとしていた俺に、あのチラシを手渡してきた子が声をかけてきた。

「どうでした?」

「なかなか面白かったよ。俺が好きな感じの芝居だった」

「ホントですか?何か嬉しいなあ」

彼女は大袈裟に思えるくらい喜んでいた。

「何か無理矢理誘った感じだったから、ちょっと気になってて」

「いや、無理矢理ではなかったよ。でもなんであんな離れた場所で、しかも開演近い時間までチラシ配ってたの?そんなに客の入りも悪くなかったし」

俺が着いた頃には客席もほぼ満席であったし、時間的にもギリギリだった。

「そりゃあ、一人でも多くの人に観てもらいたいからですよ」

当たり前の事を訊くな、と云わんばかりの顔で俺を見てくる。

「君は役者じゃなかったみたいだけど、裏方とかはやってたんだろ?あのギリギリの時間は危ないだろ」

これくらいの規模の劇団は、チラシ配りだけをやれるような人数的な余裕はないはずだ。

「私、今回は小道具だったから。始まって直ぐは仕事なかったし」

「そっか」

「でもあの後、もうちょっとだけ配ってて、着いたのが開演一分前くらいだったから、流石に怒られたけどね」

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