サラリーマン讃歌
そう言ってペロっと舌を出す仕草に俺は微笑んだ。

「そりゃ怒るよ」

「怒られる事は日常茶飯事だけどね」

「その人、亜理砂の知り合い?」

振り向くと背の高い女が近付いてくる。

「うん。そうだよ。私がチラシ配りしてた時に無理矢理連れて来た人」

「それは知り合いっていうの??」

背の高い女がすかさずツッコんだ。

「一回会えば知り合いだよ。ねっ?」

「そうだな」

俺は苦笑しながら答えた。

「ほらね?」

「はい、はい。アンタが無理矢理答えさせただけでしょ」

「そんな事ないよ!ねっ?」

「一回会えば知り合いだ。間違いない」

「ほらねえ?」

「ねえ、ねえ、言うな!」

呆れた様に背の高い女は溜め息をつく。

背の高い女の着ている服は今日の芝居のヒロイン役の衣装だった。

舞台が終わって直ぐにこちらの入口に来たのだろう。

「すいませんねえ。うちの馬鹿娘が御迷惑をおかけしたみたいで」

「全然迷惑はかけてないよ。それに芝居面白かったし」

「あら、いい人じゃない。ねえ、亜理砂」

「いい人だよ」

満面の笑顔で亜理砂が言う。
ヒロイン役の子は冗談っぽく言っていたが亜理砂は真剣に頷いていた。

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