僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅰ


「今までありがとう、……サヤ」


名前を呼んだら呼んだで、なんとも言えない表情になるくせに。


本当に困った人。そういうところが好きでもあるけれど。



手を引かれて寝室に入れば、壁に取り付けられたブラケットライトが、ダブルベッドに暖色の灯りを落としていた。


何度もここで、ふたりきりで夜を過ごしたのに、きっともう二度と過ごせない。


引っ越してしまえば、あたしと彼の関係は終わってしまう。


終わらせるべきなんだと、思う。それなのに自分がまだここにいる現実が、未練そのものに近い。


「何、寂しくなった?」


ベッドに入って先に寝転がっていた温もりにピタリとくっつけば、どこか嘲笑するような口調に眉を寄せた。


「寂しいって言ってほしいんでしょ」

「さあな。俺自身は寂しいけど?」


嘘ばっかり。


なんて、嘘つきはどっちだろう。



「――サヤ……」


認めたくないけれど、声が震えた。


気付かないはずのない彼はすぐに、あたしを映す瞳へ優しさを帯び、髪を撫でる手つきさえ穏やかになる。


その目が、その手が、どれだけ愛しさを含んでいても、口にできない言葉があった。


「……さよなら」


そう言うしかないあたしの涙を、彼の親指がすくってくれた。


「そこは愛してるだろ」


言えない。心の中でしか、言えないよ。



ぎゅっと抱き締められ、あたしは瞼を閉じる。


眠ろう。ゆっくりと、温もりに抱かれながら。



起きたらきっと、幸せな日々が始まると信じて。



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