嫌いな男 嫌いな女

『彼女の理性』




足が動かないって本当にあるんだ……。


小さくなっていく巽の背中を見ながら、涙をながすことしか出来ないなんて。

追いかけて、文句を言えばいいのに。なんでそんなこと言われなくちゃいけないのって、叫べばいいのに……脚も、口も、なにも動かない。


今、この瞬間になって初めて、知るなんて。

こんなに、巽が好きだったんだって、思い知らされるなんて。



待ってよ、巽。待って。

会いたかった。話をしたかった。

だけどやっぱり最後はケンカ。
なのに、嫌いだっていう気持ちよりも、好きだっていう気持ちのほうが大きい。

私はやっぱり巽が好きだったんだよ、
だからこんなにも悲しいんだ……。

いつから、好きだったんだろう。
もしも、もっと早くに自分の気持ちに気づいていたら、なにかが変わっていたのかな。

素直に巽と接することができたら、私たちの関係はどうなっていたのかな。


でも、もう手遅れなんだ。

私のことを嫌いな人を好きになるなんて。
今でもどこが好きかって言われるとわからない。そんな恋もあるんだって、初めて知った。

先のない恋。もうどうすることも出来ない。
でも、好きだっていう気持ちも、どうすることも出来ない。


気づいた途端に、この気持ちなんてなくなればいいのにって思う。
だったらもう、こんなに苦しむことはないのに。

もう、会いたくない。会わなければ……この気持ちもなくなるのかな。

でも、やっぱり会いたい。
泣いてもいいから、会いたい。


隣の家に住んでいるのに、なんでこんなに、遠いんだろう。
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