嫌いな男 嫌いな女
キス、だけで、なんか一気に悩みが吹っ飛んでいくのがわかる。
素直な気持ちを口にして、巽の素直な気持ちを聞けたからっていうのもある。
このぬくもりは、もうすぐそばからなくなってしまうんだ。
そう思うとやっぱりさみしいし、不安だけど……それでも、頑張れる、ってそんな気持ちになった。
「取りあえず勉強しろ、お前、浪人するぞ?」
すぐにそうムードのないことをいうところは嫌いだけどね。
それをひっくるめて、好きなんだから仕方ない。
「分かってるよ。とりあえず巽は寝るし気が散るから帰って勉強する」
「窓から帰んなよ」
腰を上げようとすると、巽が先に釘を差すように言った。
なんで本当にこんなに怒るんだろう。
いつものことなのに、いつもいつも怒るんだから。短気にも程がある。
「なんで」
「なんで、って……あぶねえ、だろが」
「は?」
「は? じゃねえよ! バカかお前!」
ちょっと頬を赤く染めて、必死に口にする巽を見ているとなんだか可愛く思えてきた。
……ずっと、私の心配をしてくれていたってことか。そうだったんだ。
ぼーっとする私の手を引いて、「いくぞ」と階段を降りていく巽の背中がとても愛おしく思えてきて、幸せな気持ちになった。
もしかしたら、気づかなかっただけで、巽は私の思っていた以上に私のことを好きだったりするのかもしれない。
そう、だといいな。
巽のスニーカーを借りて、家に帰ろうと「じゃ」と口にすると、巽も靴を履いて私の隣に並んだ。
「なに?」
「送る」
送るって……すぐそこだけど。
でも、まあ……うれしいから、いいか。
だって今まではいつも、窓から帰っていたからこんなふうに送ってくれることもなかった。窓から帰ることでだいたいケンカしてたっていうのもあるし。
「ん」
ぶっきらぼうに手を差し出されて、ほんの少しの距離を手をつないで歩く。
私の家の前に着くと、巽はちょっとキョロキョロしてから私に不意打ちのキスをした。