嫌いな男 嫌いな女

なんだか、恋人同士だ。
恥ずかしくて、嬉しくて、頬が緩んでしまう。



「俺が東京行ったらお前来いよ」

「え? あ、うん」


どうしたんだろう、急に。
門に手をかけると、巽が呼びかけて私に一歩近づく。


「泊まりで」

「……え? あ……、多分」


そうか、そういうこともあるのか……。
ちょっと顔が赤くなってしまうと、巽は顔を近づけて、私の耳に息がかかるくらいの距離でボソリと告げる。


「ここじゃ家族にばれるから、離れたら気にしないでやれるよな」


……なんで、そういうことを口にするのか。
恥ずかしくて顔が一気に熱くなった。ついでに言えば怒りのせいでもある。


「やりほうだいだなー」

「ば、っかじゃないの! 行くわけ無いでしょそんなもん! 巽が会いたいなら巽が来れば?」

「はあ? なんで。お前が来いよ。意味ねえじゃん」


ほんっとデリカシーってものがない。
なんなのやるとかそういうことを、さらっと言うなんて! そんなこと言われて、行く行く!なんて言えるわけないっつの!

しかも意味が無い? 意味が無いってなんなの。やるためだけに会うっていうわけ?


「普通ってなに!? 知らないわよそんなこと!」

「本当にかわいげがねえなあお前は」

「あんたはデリカシーがなさすぎるのよ!」


舌を思い切り出して、門をくぐって玄関に向かった。
ほんっと最悪だ。なんであんな男なんだろう!




だけど、やっぱり、悔しいけれどスキ。



玄関に入る直前で巽と目があって、お互いクスっと笑みを零した。



素直になるのも大事だけど。素直にならなきゃ見えないものも、わからないものもたくさんある。
でも、素直になりすぎるのはやっぱりちょっと、悔しい。


だから、たまにだけ、言ってあげる。




・・・・・・・・・・・END
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