嫌いな男 嫌いな女
「そういえば、私には? 私もあげたじゃない。ボールのチョコレート」
「ああ、勝手にカバンに突っ込んできたやつか」
「食べたの?」
「人にやった」
「あんたほんっとに可愛くないわね。お返しは貰うからね」
バカな奴に、あげたんだよ。
お世辞に浮かれて告白してフられたバカな女に。
たまたま持ってたチョコを、投げつけた。
慰めたいとか、そう言う気持ちじゃなくて、なんとなく、あいつが泣いてたら気持ちが悪いなって思ったから。
……それだけ。
そういや、あいつ、あれどうしたんだろ。
すぐ逃げたしな、俺も。もちろん話なんてしねえし。
「ふーん、そっかそっか」
「なんだよ気持ちわりいな」
ひとりでなにか納得したような笑みを見せる渚を見て眉間にしわが寄る。
なにが言いたいんだか。
「とりあえず、これでいいんじゃない?」
「えーたっけえよ。3個しか入ってねえのに、700円もすんのかよ」
「あんたのもらったチョコはこれ以上の価値があるのよ。勇気とか色々詰め込んでんだから、これじゃ安いくらいだっつーの。文句ばっかり言ってないで、相手のことちゃんと考えてあげなさいよ」
……俺の小遣いがもっとありゃあもう少し文句も減らすけど。
今日何個買うんだっけ? 今月の小遣いなくなるんじゃねえの?
「好きな子にチョコレートを渡すってすっごい勇気がいるんだから。あんたはそういう感情が欠落してんのよ。せめて日頃のお礼にお母さんになんか買うとか、私になんか買うとか、そういうのをしなさいよ」
それお前がなんかほしいだけじゃねえの?
言葉にしかけたけど、ギリギリで飲み込んだ。口にしたら多分鉄拳が飛んでくる。