Mr.キューピッド

運命の赤い糸っていうけれど、この糸ってキューピッド達の目印の為に存在しているだけにすぎないらしい。
キューピッドっていうのは人の生命力を担う仕事なんだ。『恋』をすると人は気持ちが高ぶって、それは自らの命を延ばす生命力へと変わる……だから慎重にいかないといならない。
滝本さんにそう教わった。

(だけど……)

滝本さんってば『慎重に』とか言っておきながら俺が死んだ日に大胆なことをしている訳で。そんな言葉を俺が信じられるワケがない。
看板飛ばして俺が死ぬ要因1を作った奴に『慎重に』って言われたらかなり複雑だ。

「ん、ナナト、どうかしたか?」

ジッと滝本さんを見ていたら、本人に気付かれて話し掛けられる。

「いえ……何でもないです。」
「そうか。」

サラリとそう言うと、再び視線を赤い糸へと落として、その後を辿り始める滝本さん。
サイズが合っていない大き目なスーツに無精髭に癖のある髪……格好はホームレスっぽいクセに意外と仕事人だよなぁ、滝本さんって。
昔は髪の毛ストレートだったらしいけれど、何故か日に日に癖毛になったらしい。キューピッド達の間で『七不思議』にされるほどの変わり様だとか。
服のサイズは本人曰く、『これしかなかった』とか。
因みに俺の服はサイズぴったりなスーツに紐みたいに細いリボン……『喋らなければ女みたい』って言われるから、仕事で外に出る時以外は外している。
馬鹿にされたくないから!


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