花火


「落ち着きなさい。大丈夫だから。

君は彼に傷をつけてしまったけど、彼は生きてる。

君も生きてる。

だから何も怖がることはない」


刑事が、父と重なって見えた。

警察から連絡が来て父と母はどれほど驚いたろう。悲しんだろう。


一度面会に来たお父さんとお母さんはこれまでにないくらい悲しい顔をしていた。

お互いあまり話さなかったし、私もまだ落ち着いていなかったからぽつりぽつりと小雨のように交した言葉もほとんど覚えていない。

でも面会時間の終わりを告げる監守が部屋を出ていき、それに続いてドアに手をかけたお父さんは少し振り向いて言った言葉だけは、しっかり私の中に刻みこまれた。


『大丈夫だ。がんばれ。夏花』


ありきたりな、何気無い言葉だったけど、私の中にはしっかり刻みこまれたんだ。

お父さんがかみしめるように言った私の名前。


『夏の花は、強いんだぞ。コンクリートからだって生えてくる。

日照にも負けないできれいに咲くんだよ』

いつのことだったか、一緒に道端に生えた花を見ながらお父さんはそう言った。

力強いその言葉とはうらはらに、優しく、優しい目をしていた。



「もう、わからないんです。彼が生きててうれしいのか、私が生きてて、うれしいのか」


「大丈夫」


にわかに微笑んだ刑事は、私の父だった。

「お父さん、ごめんなさい…」


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