真夏の深海魚
匂い
思ったとおり、部屋に戻っても匂いはそのままだった。
玄関、ソファ、布団に枕。あらゆる箇所に彼女が染み付いてしまっていた。
反射的に冷蔵庫から缶ビールをとりだし、のどの奥に流し込んだ。
味は無かった。
発泡する液体が、重力に従って高い場所から低い場所へと、ただ流れ落ちていくのを確認した。
僕は、4年間付き合っていた彼女にたった今別れを告げられた。そもそも、そんな時に飲むビールに味なんて無いのだ。
< 1 / 18 >

この作品をシェア

pagetop