真夏の深海魚
ホテル
僕は二十九歳だが、周りからはよく童顔だと言われる。
太っているわけでも、ハゲているわけでもない。
中肉中背だし、一見するとさわやかな好青年に見えなくもない。

女の子をお金で買う、油ぎった中年オヤジのようには見えないはずだった。

それとも、事実、僕は失恋したばかりで、
どことなく人恋しそうに見えたのだろうか。

それにしても、一回五万円というのは、はたして高いのか安いのか、相場を知らない僕には分かりかねた。

「五万はちょっと高いんじゃないかな。」

ためしにそう言ってみたら、ユカは黙ってしまった。
宙を見つめ、何かを考えているようだ。

いや、本当は何も考えていなかったのかもしれないし
考えているフリをしていただけなのかもしれない。

「冗談だよ。五万でいい。」

と僕が言うと、
彼女はアイスコーヒーのストローに唇をつけながら、ひとしきり僕を眺めた。

それから、僕の手を握って席を立った。
僕はあわてて店員に二人分のアイスコーヒー代を払った。
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