アメルの卵


六人の王が統べる世界テクスタでは、お互いを一切干渉せず、争いが起きることはない。ある種の共存をたもっている。

だが、己の国から一歩でも外に出ると、その者に与えられるのが生ではない事は確かだ。


その為、テクスタに旅人は少なく、ましてや、腰に剣を挿している彼は異質で異様に目立っていた。



短く切られた明るい茶色の髪、真っ直ぐ前を見つめる深く青い瞳。
精悍な顔立ちは都で話題の芸人一座の看板役者のようだ。

その異質さを除いても、視線を集めるに充分な魅力を彼は持っていた。


「おい」


視線の中心にいた彼に声をかけられた男は慌てて返事をする。

耳にすんなりと入るその低い声に若い娘は黄色い声をあげた。


「な、なんだい?兄ちゃん」


「アメルの卵を知らないか?」










「………アメル?知らねぇなぁ」



「………そうか」


彼の落胆した表情に男は言葉を付け足す。


「卵のことなら、養鶏所の婆さんに聞いてみるといい、あの人は長生きしてるし何か知ってるかも知れねぇ」







「…………ありがとう」


親切に好感を持った彼は薄く笑みを浮かべ礼を言った。

踵を返し去っていく彼の背に養鶏所の場所を告げると、彼は振り返り大きく手を振る。







その背中を押すように大気は大きく動いた。
< 2 / 6 >

この作品をシェア

pagetop