DELERTER
ハジマリの日
サイレンが、煩かった。

その中で幼い俺はただ、自分の家に向かって叫ぶ。
『亜紀!!亜紀ィイイイ!!』
喉が、枯れた。
熱くジリジリする。
それでも俺はただ、叫んでいた。
走り出そうとする身体は、傍に居た警官に押さえ込まれる。
8歳の身体はとても非力で、拘束された腕を振り払う事もできない。
『放せよォオオ!!!放せぇえええ!!!!』
助けてくれといくら懇願しても、助けてくれなかった。

妹がまだ家の中に居るんだ。
あんた警察なんだろ?!お願いだから亜紀を助けて!!

―――――――いくら言っても、助けてくれなかった。

「頼む!!命だけは助けてくれ!!」
「悪いねぇ、おっさん。これも俺達の仕事なの。人類皆平等って言うでショ?あんたさ、自分じゃ知らないだろうケド結構な人数に恨まれてんだよ。」
ねぇ?そう言いながら、手の中の獲物をヒタヒタとまん丸な頬に押し付ける。
警察の組織の、割と上部の地位を持つその男は『ヒィ』と悲鳴を上げて、ひん剥いた目を更にひん剥かせて俺の獲物・・・日本刀を見た。
「だから、悪いねェ」
思ってもないことを口にする。自分でも判る。自分の口角が上がっているのが。
「お、お前等、金で雇われてるんだろ!?金ならいくらでもくれてやる!!いくらだ?!いくら欲しいんだ!!?」
脂汗を滲ませた顔で必死に生にしがみ付く男に、俺と相棒は顔を見合わせる。・・・しかし互いに思うことは一緒らしく、目で問いかけると、やってられるかと言うように視線を明後日の方向に放った。
「血税食いつぶして生きとるもんが随分偉そうな口叩きはりますなぁ?」
相棒がそう言うと同時に、俺は肩に引っさげていたもう一本の日本刀をスラリと抜き取って、振り上げる。
「待て!!!頼む!!命だけは!!」
「・・れなかったよな?」
「は?」
ストン・・・と、研ぎ澄まされたソレを振り下ろすと、ゴロリと丸みのあるものが床に転がる。

「助けて、くれなかったよな?」

もう二度と口の開く事の無い男を睨みつけて、呟いた。
警察という立場に居ながら、一般人が死に逝くのを黙って見ていたあんたらが、憎い。
だから思い知らせてやるんだ。
失う怖さを。その瞬間を。

――――――――俺達が味わったように・・・・
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