DELERTER
分かたれた道
「なぁ、サク」
「やめてぇなシド。仕事ん時だけやっていうたやないか。その呼び方」

お湯を注いで3分と言う、長いのか短いのか良く判らない時間を待つ間、向かいに座る相棒に話掛けて見るが、機嫌が悪いのか素っ気ない。
「…わぁったよ。俺が悪かった。んで、粋(すい)……今日、そっちのクラスどうだった?」
「別にィ?…あぁ、でも昨日のおっさんの娘はんは休んどったな」
「今日はどうする?やるか?」
「…涼(すずし)の好きにしたらええ」

チロチロと時計を見ていた相棒が割り箸を割る。パキンと小気味良い音が部屋に響いた。

俺、志堵涼(しど すずし)と、俺の正面で妙に品良くラーメンを啜る相棒、三咲粋(みさき すい)には、意外な共通点がある。
俺も粋も、何年も前に身内を一人、亡くして居る。
俺はたった一人の妹を。

粋はたった一人の父親を。

尤も、驚いた点は二人とも警察に追われ、偶然家に逃げ込んで来た犯罪者によって、身内を手に掛けられたと言う所である。

俺の妹は、一番抵抗力がないことから犯罪者の人質になり、警察の対応が遅かった為に犯人の怒りを買い、見せしめとばかりに惨殺された。

粋の父親は、家に押し入って立てこもった犯人に、人質になりながら、何度も説得を試みて警察が動く為に時間を稼いで居たらしい。が、その甲斐空しく、急いて強行突入を目論んだ警察に焦った犯人が、気狂いを起こし持って居た拳銃を、まだ幼く恐怖で泣きわめいて居た粋に向かって暴発させた。それを咄嗟に庇った父親は…その背で全ての銃弾を受け止めたのだと言う。内臓損傷に伴う出血多量。自分に覆い被さって冷たくなって行く父親を粋はどう思ったのだろう…

犯人が逮捕されたのは、二つの命の灯火が吹き消された後だった。


その後、『家族』は面白い程簡単にバラバラになった。父親は酒に溺れ女に溺れ、行方知れず。母親は蒸発した。
粋の母親は、父親が死んだ数日後に首を吊ったらしい。

俺達にはもう、帰る場所なんて何処にも無いんだ。


復讐と報復…それ以外に無いんだ。…進むべき道は、何処にも…


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