吸血鬼の花嫁


「人の生き血を啜って、人が逃げ惑うのを眺めること以上に心が踊ることはない。

そう思わないか?」


青年、後に黒刺と呼ばれる男の問い掛けに、ユーゼロードは目眩のような感覚に襲われた。

この男は何を言っている。


炎の赤の中に青年の黒い姿が浮かび上がる。

後ろで人々が、叫び声をあげて逃げ惑っていた。


「まさか…」


この、炎は。

言葉にならなかった。


「ふぅん、どうやらお前と私は似ているようで、まったく違った性分らしい」


折角、似たものを見つけたと思ったのに残念だ、と青年は心底残念そうに付け足す。


「結局血によって増やすしかないというわけか」

「血…」


何の話だろうか。


「知らないのか」


男は自分の首筋を指差した。


「ここから、人の血を飲めばいい。そうすれば、一度人として死んだ後、我らの眷属として甦る」


眷属として…。


「…それは、独りではなくなるということか?」

「まあ、そうとも言えるのだろう」


青年がユーゼロードの無知をせせら笑う。たが、ユーゼロードの耳には届いていなかった。

共に歩む者が出来るかもしれないという甘い誘惑に酔っていたのである。


気が付いた時には、青年はどこかへ消えていた。


街から離れる途中、火事から逃れてきたらしい少女とすれ違う。

立ち上がる力を失って、誰もいない木陰で荒く息をしていた。放っておいても、いずれ死ぬだろう。

少女は、ユーゼロードを見つけると、目を見開く。


「あなたは…死神…?」

「違う」


少女の声はかすれていたものの、響きに透明な純粋さを持っていた。

何となくそこに惹かれ、深く考えることなく、青年が言った通りに少女の首筋から血を飲む。

初めて飲んだ血は、驚くほどユーゼロードの口に馴染んだ。


ぐったりとした少女を安全な村の前まで運び、十日ほど待ってから迎えに行くことにする。

帰る家を持たないユーゼロードでは、意識のない少女を連れ歩くのが困難だったのだ

ユーゼロードは自分の心が踊っていることに気付いた。

少女の目覚めがとても楽しみだったのである。



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