吸血鬼の花嫁


「あ。別に怪しい者じゃないよ、ほら、ほら」


降参するようにハーゼオンが両手をあげる。人懐っこい笑みは、胡散臭くも見えた。


よくよく考えれば、家妖精たちは私よりずっと小柄だ。見えなくとも、幼子ぐらいしか背がないことは分かる。

その特徴に目の前の男は当て嵌まらなかった。


「君からかすかに青の血の匂いがするってことは、君は青の花嫁だろ?」


私は素直に頷くべきか、この場から逃げるべき迷う。

大声で叫んだら吸血鬼は助けに来てくれるのだろうか。


…来てくれなさそうだ。一人で切り抜けるしかない。


「そんなに怯えなくても…」

「……怯えているわけじゃないわ。迷ってるの」

「何を?」

「あなたは普通の青年のように見えるけど、ルーをルー坊なんて呼ぶぐらいだから、少なくともルーより年上なんでしょ。

と、いうことは少なくとも普通の人間の青年ではない」


私は言い切った。

ハーゼオンが普通の人間であるなら、六十過ぎでその姿はそぐわない。


「うん、それで」


ハーゼオンは否定をせず、答えを待つ教師のように私を見つめている。


「じゃあ一体なんなのかを必死で考えてるけど…」

「けど?」

「…けど、答えは分からなかったわ」


私の言葉に、ハーゼオンがきょとんとする。それからあっはっはっはっと腹を抱えて笑い出した。


「素直でよろしい。…大丈夫、俺は君を傷つけたりはしないから。

それに何かしようとしたら、今俺の肩に掴まっている家妖精に首を占められると思う」


肩の辺りをハーゼオンが指す。よく見ると肩の辺りの布が不自然に引っ張られていた。

ハーゼオンはそこへ向かって、離してくれよと声を掛ける。


「やっぱり、あなた自身は家妖精さんじゃないのね」


薄々気付いていたけど、さっきの自己紹介は嘘だったのだ。この場で適当に言っただけなのだろう。

ハーゼオンが一瞬しまったという顔をしたのを、私は見逃さなかった。



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