吸血鬼の花嫁


ハーゼオンは私の恐怖を見透かすように目を細めた。

別人のように冷めた目をしている。


「怖い?」

「……」


怖かった。だけど、それをそのまま伝えることは出来ない。

私はぎゅっと手を握りしめた。


「怖くてもいいんだよ。君は望んで花嫁になったわけじゃないんだから、そう感じなきゃ駄目なんだ。

…俺にはもう、分からなくなってしまったけど」


近づいて来たハーゼオンは私とルーの前に立つ。

赤茶の髪と緑の瞳を持つ人の姿をした青年であり、

人ならぬ者。


「昔は確かに人だったのに、今はもうあまり思い出せないんだ。

俺の眷属たちはとても俺に優しいけれど、盲目的な忠誠は友情でも愛情でもなくて、時々よく分からなくなる。

だから、俺を怖がって、怖いときには怖いと言って教えてほしい。

そうじゃなきゃ、俺はきっとこれからも人を忘れていく」


言い終わったハーゼオンが突然頭を抱えて座り込んだ。ルーが慌てて駆け寄る。


「おい、大丈夫か」

「あー…何か気弱になってる、俺。青珀に花嫁が出来て羨ましいのかも」

「は?」

「まさか、青珀に花嫁が出来るなんて…。なんかルー坊も楽しそうだし。俺も花嫁欲しくなってきたなぁ」


今までの真面目な部分はどこに行ったのか、ハーゼオンははぁあぁと深くため息を吐いた。


「お前、花嫁は作らないんじゃなかったかのよ」

「いや、そうなんだけどさ。ルーが俺んとこ来てくれてもいいけど」

「断る」


ルーの即答に、ハーゼオンがちぇっと口を尖らせる。それから私の方を見て、少年のように笑った。


「ルーも花嫁も青珀にべったりじゃないところがいいよね。俺に対しても普通でなんか落ち着く。

ほら、俺って他の領域の奴らに馬鹿にされてるか嫌われてるかのどっちかじゃん?」

「…自分の領域だと偉ぶってるけどな」

「それは仕方がない。上には威厳というものが必要なわけで」


二人の流れるようなやり取りは普通の友人同士の会話となんら変わらない。

ハーゼオンは、いつの間にか人の面へ戻っていた。



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