キヨツカ駅改札口にて

2の改札口






暑さの厳しい季節になってまいりました。
朝も昼も夜も、行き交うお客様方は、汗を拭いながら日射しに負けじと毎日を過ごしております。
電車が橋桁を通過するたび、改札前の横断歩道にはきらきらと光が舞い散って、目を細めながらそれを見ていました。


「お姉さん」
「はい、どうかなさいましたか?」


ふいに話し掛けられ振り返れば、そこには品のいい老婦人がいらっしゃいました。


「この間ね、熱中症で倒れたのよ。駅員さんに助けていただいてね」
「まあ、もう大丈夫なんですか」
「ええ、すっかりよくなって退院したのよ」


よかった。
笑みを浮かべてそうですかと返すわたしに、老婦人はこう仰いました。


「今日いないみたいなの、その人。御礼が言いたかったのだけど」
「……そうですか」
「ええ、残念だけど、もう行かなくちゃ」
「伝えておきますね」


よろしくと手を振って去っていく老婦人に、思わずまた、笑みを零して。

橋桁の下の横断歩道は、やっぱり、きらきらと光っていました。





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