キヨツカ駅改札口にて

3の改札口






蒸し暑い夕方の改札口。
だいぶお客様の数も減り、わたしは一息ついていました。


「お姉さん、」
「え?あ、はい」


全く気配のしなかった背後から急に呼ばれて、振り返ってみると1人のお客様が。
短い髪に眼鏡を掛け、嬉しそうに笑ってこちらを見ている女の方です。


「わたしね、彼を待っているの」
「そうなんですね」
「10時の待ち合わせなんだけど」
「……10時、ですか?」


思わず首を捻りました。
今は夕方、時刻は4時38分。
腕時計を確認してから、お客様に視線を移すと、やっぱり笑っているのです。
朝の10時ならば過ぎてしまっているし、夜の10時ならまだだいぶ時間があります。


「わたしね、彼を待っているの」
「……あの、」
「待っているのよ」


改札前に下げられた大時計を見つめるお客様に、つられてわたしもそれを見つめました。


「待っているの」


ぱっと隣を見ると、お客様はもう、そこにはいなかったのです。
夕方の蝉の声だけが、何故か、物悲しく響いていました。





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