戦国遊戯
上杉軍の兵士達は、皆、武器をおろした。なぜかはわからなかったけど、それでも、今、この場に限ってだけは、争いが止まったんだ。そう思った。

「玲子様。怪我は大丈夫ですか?」

兵の1人が駆け寄ってきて、そっと手を見た。

「っ痛!…あ、あはは、大丈夫」

笑ってはみたものの、傷は意外とひどいのか、指を動かすと、ずきずきと鈍い痛みが走った。

「これで、手を。…少し、しみますが、我慢してくださいね」

そう言うと、持っていた手ぬぐいをびりびりっと破り、手の傷のあるところに水をかけて巻いてくれた。

「ありがとうございます。ごめんなさい」

「な、何をおっしゃるんですか!もったいないです」

慌てる兵士。何をそんなに慌てるのかわからなかった。

「取り急ぎ、こやつを本陣まで連れて行きましょう」

「あ…私は、まだここにとどまるから、申し訳ないんですけど、柿崎さんを、本陣まで連れて行ってくれませんか?」

「えぇ!?な、何を言っているのですか!その手で、どうやって戦うおつもりなんです!」

言われて、苦笑いしか出てこなかった。確かに、言われる通りなのだが、しかし。帰るために必要な何かの手がかりが、まだつかめていない。それに、信玄にも任されているのだ。手の傷くらいでは、戻ることはできない。

「それでも、行かないと。ほんとに、ごめんなさい。申し訳ないんですけど、お願いします」

そう言って、さらに、上杉軍本陣へと向かっていった。
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