世界の灰色の部分
泣いているリナさんのあの姿は、正直惨めだったと思う。
けれどわたしは、きっとほんのすこしうらやましかったのだ。

あのリナさんが、今まで積み上げてきたもの全部捨ててまで、あの彼氏を愛してることを主張していたこと。わざわざこんなところに来られるくらいに、リナさんは彼氏に想われていたということ。

わたしはなりたくても、あのひとにはなれない。

「じゃあ、わたしもう帰るね。お疲れ様です」
すでに着替えを終えていたわたしが店を出ようとすると、ヤマちゃんが再度声をかけてきた。
「あ、瑞穂ちゃん待った。今日もらった花束忘れてるよ」
「…いい。捨てといて」

店の外に出ると小雨が降っていて、タクシーの窓から濡れている町を見ていたら、なぜだかどうしようもない不安に押し潰されそうになった。
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