世界の灰色の部分
月曜日。
昼休みにいつものように裏庭でお昼を食べていると、久々に先生がやってきた。
「やぁ」
わたしの心の中にはなぜかリナさんが辞めた夜からわけのわからない不安がずっと住み着いていて、正直苛立っていた。
だから、いつもの調子でやってきた先生を無視した。すると先生は、特に気にするわけでもなく、横に座り込んであんパンを食べ始めた。
わたしが黙っていると、先生はやがて口を開いた。
「南野さんは彼氏とかいるの、かな」
「はっ!?」
思わず箸でとった卵焼きを落としてしまった。
「…聞いてどうするんですか、そんなこと」
「あー、いやー、その…。以前好きな人がいるって言ったの覚えてるかな?それでこの前そのひとに花束をあげたんだ。2回。喜んでくれた。年下なんだけど、俺よりずっとしっかりしててさ」
「…」
わかってない。
花束なんて、もういらない。もらったって、棄てなきゃいけないんだから。
あんたは瑞穂に本気なわけか。それで今度はあたしからアドバイスもらって、また週末にでも花束持ってキャバクラ来て、瑞穂に告白でもしたいんでしょ。
なぜか、苛々は渦を巻きながら、あたしの中で増大していった。本当は今すぐにでも、あんたが惚れてるキャバ嬢の正体はこのあたしだって言ってやりたかった。
「…いますよ、彼氏。役者やってて、かっこいいんです。わたし、彼のためならなんだってできるんです。だから、お金貯めたら彼とかけおちするの。こんな町から出て、二人で遠くで幸せになるんだから」
正体を明かす代わりに、うっぷんをぶつけるようにして、その言葉が口から出た。
「…かけおちって、本気で言ってんの」
途端に先生の顔が曇った。
けれどそのとき誰にも言ったことのなかったことを吐き出して、すでにわたしの中ではなにかが外れていた。
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