世界の灰色の部分
「夏実、お前にそこまで言ってもらえんのは嬉しい。でも、俺には他に大事なものがあるんだよ。俺、こんなだけど、今の劇団本気なんだ。それにバイトも、時々嫌になることもあるけど、いいやつらが多くてさ、まだ続けたい。正直に言う。かけおちなんて、したくない」
わたしは何も言えなかった。
「ごめんな。俺ずっと、夏実には俺しかないの知ってたから、だから俺といるだけで夏実が幸せなら、甘えてもいいってどっかで思ってた。夏実がこっそりポストから明細抜いて電気代とかケータイ代払ってくれてんのも気づいてた。でも何もいわなかった。…こんなのもう、彼氏じゃねぇよな」
「そんなこと…」
「だけど、夏実は夏実で、ずっと俺とかけおちすること考えてたんだよな。だからこんな俺に尽してくれてたんだよな」
否定できなかった。さらにケンくんは続ける。
「でも俺はさっき言ったとおりかけおちはできない。それに、これから夏実にしてもらったぶんを返していく自信もない。こんな俺とこれ以上いたって、夏実不幸になるだけだよ」
「…ぃゃ」
絞り出すように何か言おうと思うのだけれど、思考を言葉にまとめることもできなかった。
「別れよう、夏実…」
わたしはうつむいて、頷くしかできなかった。
わたしは無言のままケンくんに背を向け、歩き出した。やがてキィ、バタン、という音が後ろでして、振り返るともうケンくんはいなかった。
わたしは何も言えなかった。
「ごめんな。俺ずっと、夏実には俺しかないの知ってたから、だから俺といるだけで夏実が幸せなら、甘えてもいいってどっかで思ってた。夏実がこっそりポストから明細抜いて電気代とかケータイ代払ってくれてんのも気づいてた。でも何もいわなかった。…こんなのもう、彼氏じゃねぇよな」
「そんなこと…」
「だけど、夏実は夏実で、ずっと俺とかけおちすること考えてたんだよな。だからこんな俺に尽してくれてたんだよな」
否定できなかった。さらにケンくんは続ける。
「でも俺はさっき言ったとおりかけおちはできない。それに、これから夏実にしてもらったぶんを返していく自信もない。こんな俺とこれ以上いたって、夏実不幸になるだけだよ」
「…ぃゃ」
絞り出すように何か言おうと思うのだけれど、思考を言葉にまとめることもできなかった。
「別れよう、夏実…」
わたしはうつむいて、頷くしかできなかった。
わたしは無言のままケンくんに背を向け、歩き出した。やがてキィ、バタン、という音が後ろでして、振り返るともうケンくんはいなかった。