世界の灰色の部分
本当はこの島に来ることを決めたとき、もう家に帰らないということも考えた。
先生はどうするかわからないけど、姉さんに会えたとしても会えなかったとしても、やっぱりわたしは最初の願い通り、誰も知らない地でこれから新しく生きようかと。
だけど家を出るときに、弟がわたしを呼びとめ、言ったのだ。
「瑞穂姉さんに会えたら言っといてよ。そのうち一回くらい帰ってきなって。オレさ、あの人の顔だってちゃんと覚えてるかって言われたら微妙だけど、小さいとき家族みんなが揃ってて、クリスマスにケーキ食って、チキン食ってっていうの、すげー頭の片隅に残ってんだよね。もう、今さらなんだってかんじだけどさ、でもまたみんなでケーキ食おうよって、伝えてよ」
…ああ、そうだ、たしかにあった。
頭の奥で、ホコリをかぶっていた記憶が再び鮮明に浮かび上がった。キラキラと光りだした。
そのときあたしは、まだまだここが帰るべき場所なんだと、確かに思ったのだ。

世界の灰色の部分だと思っていたわたしの人生は、たしかに白でも黒でもないけど、きっと灰色でもない。
そもそも世界に色なんて決まってないのかもしれない。
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