【短編】運命の人
朝のラッシュ時。
みんなが自分のことに精一杯で、バッグの中身を必死にかき集めている僕のことなど見てみぬふりだ。
「……大丈夫ですか?」
そんな中で、声をかけてくれたのが奈津だった。
「すみません、ありがとうございます」
散らばった書類などを、奈津は無言のまま手早く集めてくれた。
そして、かき集めた物を「どうぞ」と言って、にこりと笑ってくれたんだ。
僕は、自分が急いでいることなんかすっかり忘れて、奈津の笑顔に釘付けになってしまった。