-恐怖夜話-
赤い絨毯の中に、ポツリと涙の粒を落としたようなご主人のリュックの青の色彩。
私の脳裏には、見たことが無いはずのそのビジョンが、鮮やかに浮かんだ。
あれは、夢なんかじゃない。
十年前、本当に起こったこと。
私と武士は、その亡くなった夫婦の死を追体験したのだと、そう思った。
あの全身を貫くような痛みと、武士を失うと感じたときの憤りと悲しみ。
私は始めて『慟哭する』という言葉の意味を知った気がする。
心が壊れてしまいそうな激しい感情。
あんな感情は、もう二度と味わいたくない……。