小爆発
そんな彼女の仕草のかわいらしさにほだされそうになったが、呼び名だけは譲れない。

「山田です。」
今度は少し強い口調で。
「はぁい・・・でさ、やっぱりこのCD、歌詞なんか気にしないで聴いてみて!!」


考えるな、感じろ、とでも言うのかこのひとは。縄文語や中国語ならまだしも、日本語では歌詞が感じるまでもなく頭に入ってきてしまうではないか。

と言っても彼女には、その感覚がわからないそうだ。日本語でも英語でも、旋律に乗った言葉は、何を聴いても言葉には聞こえない。ただの楽器の音のように聞こえてしまうそうだ。歌詞カードを見て初めて何を歌っていたか理解できるのだ。

それとは関係ないが、彼女はひどい方向オンチである。週末にはよく「ここ、どこ?」という電話が桜さんからかかってくる。

そういう時はとりあえず「知りません。」と返し、「薄情者!」と心温まるやり取りをしてから、彼女の現在地を説明してもらい、迎えに行く。

「あ、聞いて!今日、学校に行くときも迷っちゃって・・・」
本気で私、何かの病気なんじゃないかなぁ?とけらけら笑う彼女に、まさか、と笑いながら、内心ではとりあえず全力で同意しておいた。

そんなこんなで話をそらしつつ、そらされつつ、彼女一押しのCDを借りるという本題に戻されて、結果的に彼女は家に帰り、部屋には私と彼女の部屋の匂いのする、例のCDが残された。

いえ、嗅ぎませんよ?CDなんて。
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