愛すべき君へ


「莢花」

僕がそう呼ぶと
一斉にみんなが
振り向いた。

「叶っ!」

そう言って
駆け足でくる
莢花は犬みたいで
とても可愛かった。

「ちょっと話あるからいい?」

そう言って僕は
莢花を人通りの少ない
東階段へと
連れて行った。

「話って...何?」

莢花は僕を疑いながら言った。

「別れよう」

僕は溢れる涙を
こらえながら
言った。

「え...?」

莢花の目からは
一筋の涙が流れ落ちた。

「ごめん...
俺っ...」

言いたいことは
山ほどあった。
だけど伝え切れなかった。

「叶...ゆっくりでいい
だから...ちゃんと話して?」

莢花は落ちる涙も
気にせずただ僕を
じっと見つめていたんだ―


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