√番外編作品集
「ここ、入り口どこなんだろ」

暗闇の中に立っていたのは、廃墟ビルだった。

3階の麻雀店から明かりが漏れているので、人はいるのだろう。

4階は古びた不動産屋。

2階はよく分らない芸能事務所が入っていた。

「1階でもないしそれより上でもないよな。ポストとかないか? 場所は間違ってないぞ」

2人は明らかに人の手の入っていないエレベーターフロアに入ると、ポストを確認する。

「あ、地下2階。ライブハウスグレンチェッカーだって」

「営業はしてないみたいだな」

ポストからはテレクラのチラシが柳のように垂れ下がっている。

様子を窺いながら階段を降りるとグレンチェッカーの入り口は少しだけ開いていた。

敦子には何かの救いのように見えたのだろう

傷ついた足のことなど忘れて、そのドアに飛びついた。

「これ、わざとゴミで入り口開けてるんだよね」

「そうだな。黒沢か?」

「潤だよ、潤に決まってる」

ドアを思い切り全開にして、その状態で固定する。

暗いグレンチェッカー内を、懐中電灯で照らした。


しん、としていた。


この暗闇の廃墟に似合うものがあるとすれば、音もなく降る雪だろうか。

「あれ、フロアかな?」

カウンターの向こうの入り口に近づくと、敦子は明かりを求める。

明かりを差し向けると、分厚い防音ドアのドアノブが光りを反射する。

「開けるね」

「俺がやる、力必要なんだから……足、いたわれ」

急いている敦子を手で押さえてから、俊彦はドアノブに力を込めた。
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