√番外編作品集
「潤の幸せ潤の悲しみ、それを一緒に喜びたいし悲しみたいし、ちゃんと共有できる、となりにいられる存在になりたい。
潤の傍にいると安心できる。私は私のままでいいんだってそう強く思えるし、自信がもてる。バカだし自慢できる取り柄もそんなないけど、それでも私はって思えるんだ」

スキンヘッドのボーカルが人差し指を高く上げて、何か英語で叫ぶ。

フロアを出ると、耳がぼんわりと綿に包まれたような感覚になった。

「でも人の心って難しいね。どんなに理解したいと思ってもやっぱり自分じゃないから思う通りに行かないし。モノだったらお金出せば手に入れられるけど、人の心は手に入らない」

「だから気持ちが通じた時は嬉しいんだよ。一生懸命追いかけるんだ」

「──堀口さんってさ」

敦子は後ろから俊彦の前方に回ると、じっと顔を見つめた。

「何?」

「結構ロマンチストだよね?」

突然の言葉に思わず唖然とするのと同時に、同じコトを渋谷景に言われたことを思いだして思わず赤面した。

まともに話て数時間の相手にそこまで言い抜かれてしまうとは。

「わ、悪いか」

「悪くないよ。今の私には嬉しいな。前向きになれる」

顔を背けてのぼせ上がった顔を冷却しようとすると、敦子は本当に気にとめていないのか、俊彦を追いながら階段を上っていく。

次がこの地区の最後のライブハウスだ。

最後だということを伝えると、敦子は先ほど以上に引き締まった表情をした。

怪我をしたという足を少しかばうように歩きながら、夏の夜道を切り裂いていく。

途中千恵からメールが入る。

あちらのチームは担当地区の確認を終えたらしい。

こちらはあと1つだと伝えると警察への捜索願の検討を始めることを提案してきた。

「そうだね。私たちだけで手が終えなくなったらそれが一番いいんだよね」

「いきさつを話したとして、理解されるかは分からないけどな」
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